気仙沼産フカコラーゲンが
⾼品質の化粧品原料に採⽤
究極のフカコラーゲンは、
思わぬ部位にあった!
2013年に発⾜した気仙沼⽔産資源活⽤研究会。気仙沼市が事務局となり、市内の会員企業と⼤学などの研究機関、外部の専⾨家が連携した組織です。豊富な海洋資源を新しい視点で活⽤し、独⾃の商品開発を⾏っています。2015年夏には気仙沼産のフカヒレから作られたコラーゲンを配合した化粧品ブランド「マリナス」が誕⽣し、地元はもちろん⾸都圏でも販売され、愛⽤者を増やしています。実は、この“化粧品⽤コラーゲン”も研究会の⼤きな成果。気仙沼初の化粧品原料の開発秘話をお伝えします。
写真左から ⽯渡商店/⽯渡久師⽒、⾼研/⼩野寺純⽒、佐藤幸宏⽒、井岡亮⼀⽒、撮影/⻑⾕川梓(2018年8⽉)
“⽔揚げ⽇本⼀”のフカヒレで化粧品をつくりたい
気仙沼が誇る美肌⾷材として全国的に知られているフカヒレ。気仙沼⽔産資源活⽤研究会で「フカヒレに含まれるコラーゲンを贅沢に⼊れた化粧品をつくりたい」と、発⾜当初から活動を始めたのが当時のサメワーキンググループ(現・コスメワーキンググループ)。
化粧品に配合するには「化粧品原料」として認可されることが必要なため、開発アドバイザーの(株)肌箋舎・池⽥敏秀⽒の紹介により、化粧品⽤コラーゲンの研究・製造に実績のある(株)⾼研(以下 ⾼研)に開発を依頼しました。研究会の会員企業でフカヒレ加⼯会社の(株)⽯渡商店(以下 ⽯渡商店)との協業で、気仙沼初の化粧品原料の開発を⾏ないました。
その経緯について、⾼研の担当者3名(⼩野寺純⽒、佐藤幸宏⽒、井岡亮⼀⽒)と⽯渡商店専務(現・社⻑)の⽯渡久師⽒に改めて語ってもらいました。
そもそも化粧品におけるコラーゲンとは?
コラーゲンとは、アミノ酸が約千個連なったポリペプチドが三本集まった“らせん構造”を作っている、たんぱく質の分⼦。化粧品原料としてはよく⽤いられる基本的な成分で、保⽔⼒・保湿効果を備えています。しかし、コラーゲンの原料や抽出温度などの違いによって、肌への浸透のしやすさや保⽔⼒・保湿⼒は変わることが分かっています。
ちなみに、近年開発されて浸透の良さがアピールされている“マイクロコラーゲン”とは、コラーゲン分⼦を細かく切断したペプチドのこと。⽪膚内部への浸透は良いものの、保⽔⼒・保湿⼒はコラーゲンの⽅が⾼いとされています。
気仙沼の⾼い加⼯技術で協業がスムーズに
⾼研では以前からサメの⽪から採ったコラーゲンを製造・販売していましたが、2011年の震災以降、原料の⼊⼿が困難に。
佐藤⽒:原料を、それまでとは違うルートで⼊⼿したフカヒレに切り替えてみましたが、当社は表⾯の⿊い⽪や軟⾻など不要な部分を取り除く加⼯技術を持っていなかったので、良い品質のものを作るのが難しくなりました。
井岡⽒:サメ⽪が原料のコラーゲンは⼈気があったのですが、もう販売中⽌にしようという話も出ていました。
そんな状況だった2014年秋、⾼研と⽯渡商店は双⽅の会社・⼯場を訪問し、⾼研の担当者は⽯渡商店でフカヒレの尾びれの上葉部に出会います。
⽯渡⽒:“フカヒレの姿煮”に使われる尾びれの下葉部とは違い、上葉部は軟⾻が多く、⾷品として利⽤できる部分は少ないんです。表⾯の⿊い⽪の下はサメの“真⽪”で、その下はほぼ軟⾻。⾁が少ないのが特徴です。
佐藤⽒:真⽪の部分が多く、私たちは“コラーゲンそのもの”の部位だと感じました。
同じ部位も、⽤途によって“価値”は⼤きく変わるということです。
⽯渡⽒:サメ本体の⽪だと、真⽪の下の⾁を取り除く作業に⼿間がかかるのですが、⾁の少ない上葉部なら作業がしやすいし、化粧品原料として使いやすいんじゃないかとお伝えしました。
佐藤⽒:コラーゲン抽出に必要のない⽪の表⾯や軟⾻を、⽯渡商店ではふだんからきれいに取り除いていると聞き、まさに欲しかった原料がここにある!と分かり、嬉しかったですねぇ。
低温下で⾏なう⾮加熱加⼯が⾼品質のカギ
⽯渡商店でのフカヒレ加⼯は、実にスピーディ。熟練のスタッフが⿊っぽい表⾯の⽪と軟⾻だけを、専⽤の包丁でスッスッと取り除き、あっという間に⽩く半透明のフカヒレに。
⽯渡⽒:気仙沼から、余計なものを⼀切含まない“きれいなフカヒレ”を、できるだけ新鮮な状態でお渡しすることがコラーゲンを作るプロセスとして⼤事だと思っています。
そのために重視しているのが“⾮加熱”で⾏なわれる加⼯。
タンパク質であるコラーゲンは、熱によって三重らせん構造が変形・変性してゼラチンに変わってしまいます。すると保⽔⼒・保湿⼒も低下するため、三重らせん構造を壊さない加⼯の温度が重要。
そこで“⾮加熱”の加⼯が重視されますが、何℃以下が“⾮加熱”とされるのか、その定義はありません。業種や会社、⽣物原料によってまちまちです。海洋⽣物が原料の加⼯の場合、マグロは30℃以下、鮭は19℃以下、サメは25℃以下がコラーゲンの構造が変化しない“⾮加熱”とされますが、⽯渡商店の場合はそれよりかなり低い温度で⾏っているそう。
⽯渡⽒:何よりも鮮度を維持するためです。加⼯するスタッフの⼿の体温も伝わらないように⼯夫し、作業は時間との闘いです。それをやれるのがフカヒレ専⾨の業者なんです。
気仙沼で加⼯されたフカヒレは、鮮度を保ったまま⼭形の⾼研鶴岡⼯場に届けられる。
佐藤⽒:余分なもののない新鮮なフカヒレなので、すぐにコラーゲン抽出のプロセスに進められます。⼿間や時間のロスがなくなり、コストも従来より下げることができました。おかげで、今までと同じ価格で今までより質のいいコラーゲンを作ることができています。
気仙沼産コラーゲンで化粧品「マリナス」誕⽣
気仙沼産のフカヒレ真⽪を原料にして作られた⾮加熱コラーゲンは、化粧品「マリナス」の化粧⽔、美容液など全品に配合されており、「サクシノイルアテロコラーゲン」という成分名で外箱に表⽰されています。
⼩野寺⽒:このコラーゲンは保湿効果に優れているのはもちろん、まったくニオイがなく、透明度が⾼いのです。化粧品の多くはpHが中性に近いのですが、そのpHできれいに溶けて沈殿もしないので、透明感が重視される化粧⽔にも配合しやすい、上質のコラーゲンです。
「マリナス」には“地元産の成分”という利を⽣かして、保⽔・保湿効果が⼗分に感じられる濃度に配合されています。
井岡⽒:マリナスの価格を⾒てみると、かなり“お得”な化粧品になっていると思います。
「KOKEN」のコラーゲン原料はすべて気仙沼産に
同じように⾒えるコラーゲンも、化粧品を作るプロたちは質の違いがよく分かります。⾼研で2015年から「KOKEN」ブランドの化粧品⽤コラーゲンの原料を、すべて気仙沼産に切り替えました。
井岡⽒:化粧品原料としての価値が⾮常に⾼く、すでに国内の化粧品メーカーで使われていますし、海外からの引き合いも来ています。
この座談会当⽇、撮影⽤に気仙沼産コラーゲンが鶴岡⼯場から運ばれてきましたが、「ヒトの体温でも、このコラーゲンにとっては“⾼温”なので、直接容器に触るのはできるだけ短時間にしてください。」(佐藤氏)と、⼤切に扱われていました。
新しいものを⽣み出す、協業の可能性
「気仙沼の美肌素材で化粧品を」というサメWGの活動は、「マリナス」ブランドの化粧品だけでなく、⽇本製の新たな化粧品⽤コラーゲン原料という成果も⽣み出しました。これは気仙沼⽔産資源活⽤研究会が掲げる協業・共同開発という姿勢が根本にあるから。
⼩野寺⽒:⾼品質の新しいコラーゲンができたのは、他社との出会いと協同で⾏うやり取りがあったからでしょう。当社とは地理的に近くはありませんが、良いご縁をいただきました。
井岡⽒:無くなりかけていた当社の製品を救ってくれた原料が、われわれの知らなかったフカヒレの上葉部でした。
⽯渡⽒:個々の会社で蓄積した情報を⾃社だけのものとせず、持ち寄って公開しないとマッチングはうまくいきません。⾼研さんにも当社の様々なものをお⾒せしました。お互い、良いものを作るために“腹を割って話そう”という姿勢が⼀致したのが良かったのだと思います。
座談会の後も、アイディアや意⾒交換が雑談レベルで続いていました。今後の新たな成分や製品に繋がっていくかもしれません。